大内誠 クリスタルヨットクラブで歌う
還暦を前にして、サラリーマンを続けながら歌手を志すというのは並大抵ではない。日本の歌ならまだしも、大内が師事した長坂玲先生(リリ・レイ)の方針は、正しいフランス語と正しい発声を徹底的に叩き込むということだから、厳しい訓練を経てきたその努力にはただただ感心してしまう。シャンソンに詳しい人は今更何をと呆れるだろうが、先生はこんなひとである。
東京藝術大学声楽科及び大学院卒業。二期会研究生終了後、ロータリーインターナショナル財団奨学金を得て、単身留学。
ベルギー王立音楽院最上クラスをグランディスタンクションで卒業、日仏コンクール入選・NHK洋楽オーディション合格、リエージュ歌劇場合格、在欧8年の間 ヨーロッパ・アフリカ・日本等でコンサート活動を行う。
長坂玲が主宰する東京シャンソンアカデミーはマスコミでも大々的に取り上げられる等、近年のシャンソンブームを創り出す大きな要素となっており、フランス原語で歌うシャンソンは仏大使館、仏ジャーナリストからも本物のシャンソン歌手として高い評価を得、国内に於いては、美しく正しいフランス原語で歌うことが出来る稀有な歌手として、その存在価値が高まっている。http://room.chanson-tokyo.jp/
この記事には多少は自己宣伝も混じっているかも知れない。しかし私は一度すぐ目の前で聴いただけだが、その歌は迫力があって本物だと思う。因みに長坂玲「シャンソンボーカルセラピー 正しいシャンソンの歌い方」というDVDが税込み四千円で手に入る。大内に続いてシャンソン歌手を目指したいひとはどうぞ、と宣伝をしておく。
こういう一流の先生の厳しいレッスンを受けているのです。まず仕事なんかしている閑はないだろうね。精進の甲斐あって、クリスタルヨットクラブという一流のフレンチレストランでショーをする。夢に見た舞台である。ここに至る大内の艱難辛苦はいかばかりであったろう。
しかし本当のことを言えば、この店を利用するのにそれほど苦労はいらない。社長の小野平にちょっとお願いすれば良い。
横の会関東支部はタイラ社長にいつもお世話になっているから、大内の歌の前にクリスタルヨットクラブの宣伝もしておかなければならない。天王洲アイル駅(東京モノレールなら浜松町から、池袋新宿方面なら埼京線経由りんかい線)を出て、品川埠頭橋を渡った所だ。この辺りは昔は運河に沿って倉庫ばかりが立ち並んでいたが、再開発のお蔭で随分変わったと、田原清彦が証言している。橋の上から見た外観は一見倉庫風なのに、中に入ると豪華なレストランだから驚く。「東京湾の貴婦人」と言われるレディクリスタル号による東京湾クルーズもお勧めコースである。
私どもが考える“クラブ”とは、ご自分の大事なお客様や愛しい方、気の合ったお仲間が心からリラックスし充実した時間をお過ごし頂ける、ともに集う場所でありたいと思っております。ですから、“どなたでもご利用になれる水辺のオアシス”なのです。
私どもは、水辺の過ごし方のヴァリエーションのひとつとして、都会のオアシスでの癒しや憩い・くつろぎそして、日常の隣りにある水辺の空間を演出してまいりました。
クリスタルヨットクラブは、都心からわずか20分の立地に、ゲストの方に本当の心のリラックスを感じていただける水辺のオアシスを展開し、開業以来多くのゲストの方にご愛顧いただいてまいりました。
ゲストハウスの前から所有のプライベートボートで出発し、船上でお客様やお友達と過ごすフォーマルなパーティー…外国映画のワンシーンのような体験が、ここ東京ベイでお楽しみになれます。 季節おりおりの特別プランをはじめ、バースデーや結婚記念日、社内の親しいかたとのお集まりなどお客様それぞれのとっておきの時間を、最高のおもてなしでお手伝いさせていただいております。http://www.crystal-yc.co.jp/about/index.html
十一時二十分頃に着くと、客船での結婚式(こういう風にも利用できる)とかちあって、大きなクリスマスツリーの前の受付は混雑している。取り敢えず外の喫煙所で煙草を吸いながら、少し空くのを待つことにした。
暫くして中を窺うと、まだステージ衣装に着替えていない大内が手招きするので受付にチケットを出す。その横にはM弁護士から大内に贈られた胡蝶蘭が飾られている。確か大内のデビューは、M弁護士が青山マンダラで開いたチャリティーショーへの出演ではなかったか。(これは平成十九年一月のことで、「横の会」会員便りに報告済みだ。私がリリ・レイの歌を聴いたのもそのときのことだった。)
今日は「ランチショー」の形式だ。十一時半開場、十二時から一時まで食事をして、一時から本番のショーが始る。フレンチのランチを食べて六千円ということは、音響、照明、ピアノその他経費を考えれば、たぶん出演者に金は残らないだろうと想像がつく。
私の席は大内の会社の同僚S氏と隣り合わせだ。レポートを書けという大内の指示だからテーブルにボールペンを出していると、「それじゃ酔っ払うわけにもいかないでしょう」と同情してくれる。「いいんですよ、適当に書けばいいんだから。」
「大内さんは合唱部か何かやってたんでしょうか。」そんな話は聞いたこともない。大内自身は、三年のときのクラス対抗合唱コンクールが原点だと言う。田原清彦の指揮でE組は「愛の讃歌」を歌って優勝したのだが、そんな頃からシャンソンを志していたとは到底思えない。「原点はカラオケでしょう」と私は勝手に断定した。
予め席には名札が置かれているが、知らなければ探すのは大変だ。なかなか見つけられない客に、グレーのタキシードに着替えた大内が丁寧に応接しているのを見ると、このレストランのマネージャーみたいに見える。「添乗員時代を思い出しますよ」とS氏が笑っている。
出演は、井上明子、上田仲子、大内誠、葛西かおり、笠原秀甫、九能みゅう、佐藤実江子、芝たちえ、高橋美礼、たつづき久美、徳物葉子、TOMO、前田恭子の十三人。ピアノは岡倉富敬。
三月「なかの芸能小劇場」のコンサートに大内と一緒に出ていたので覚えているのは、上田仲子、九能みゅう、笠原秀甫、たつづき久美、TOMOだ。誰が元宝塚、元SKD、元銀座のママだなんて特に言う必要はない。それぞれ堂々たる女性ばかりだ。そのときは、ファドの女王香川有美が特別ゲストで出演していて、初めて聴いて感動した私は即座にCDを買ってサインして貰った。
コンサートが終わって、女性の中に男一人では打ち上げが怖いと大内に誘われ、私もこの美女たちと一緒に飲んでお話をした。シャンソンに賭ける情熱はみんな大したもので、私のような素人が云々できる余地はない。ちゃんと芸名入りの名刺まで持っていて実に真剣である。
特に上手いというのではなく、そしてこっそり言えば歌にやや固さが残るが、私はTOMOちゃんのファンになった。「まだ勉強が足りないんです」なんて北海道弁で心の底から言う。派手な顔立ちなのに実に真面目な人柄が好ましい。深いアルトは最初からそんな声かと訊ねると、元々はソプラノだったと言うので驚いた。シャンソンにソプラノは合わないらしい。そして声は変えられるのである。
招待した客と挨拶を交わしている彼女を見つけて声をかけると、「その節は本当にお世話になりました」と丁寧な挨拶を返されてしまった。本を探していると言われて調べたもののそれは絶版だったから、彼女の近所の図書館蔵書を検索して教えただけだ。
みんな、それぞれ先生について歌を勉強している。私はシャンソン界の事情に疎くて詳しいことは分からないが、シャンソン教室というものは無数にあって、腕を磨いたひとは機会を見つけてはどこにでも行って歌う。大内だって北海道まで出かけていって歌うことがある。マスメディアの表面には余り出ないが、シャンソンの裾野は広いらしい。しかし市場規模はどれほどなのか。供給過多になりはしないか。
いつの間にか会場は一杯になった。客は百三十六人だそうだ。これだけの人数を集めるのはなかなか大変だと思うが、チケットはすぐに完売してお断りしたひとも多いという。見渡すと当然のことに(と言って良いのか)女性客が多い。ざっと見積もって男性は二割というところだろうか。
十二時になって料理が出始める。ワンドリンクが付いているが、ワイン一杯はすぐに飲み終わって、五百円を払ってもう一杯飲まなければならぬ。「ここで飲んじゃ、本番のときに寝てしまいそうで」とS氏が笑う。出演者はテーブルには着いていない。彼らは昼飯はどうするのだろうと余計なことを考えてしまう。
本日のメニューは、オードヴルヴァリエ、コーンクリームスープ、島根産メダイのムニエル・ソースオランデース、ショコラボワール、コーヒーである。私は日本のご飯でないと駄目な田舎者なので、料理について語る資格がない。一年ぶりかのパン、それに何十年ぶりかでケーキも食べてしまったから(残してはいけないと思ったのだ)、なんだか胸から胃にかけて変な具合だ。
私は何も言えないから実際に来て食べて戴くしかないが、ネットの口コミ情報を見ても評判は良い。値段も手頃だ。あとで大内が「それだばタイラの店だもの、あだりめダベ」と言った。
先週の幹事会と称する飲み会(今泉仁、小野平、田原清彦、大内誠、佐藤眞人。宇佐美均はメールで意見発表)で、来年一月の「横の会」関東支部の大会は東京湾ミニクルージングの大宴会と決めたから、大勢のひとが参加してくれるのを願う。秋田からの日帰りも出来る時間帯で、タイラの格段のサービスによって相当安い料金が期待できる筈だ。
朝まで降っていた雨もすっかり止んで、大きな窓の外には日ざしに光る運河が見える。さっきまで停泊していたレディクリスタルは結婚式の連中を乗せて、もう海に出ていったようだ。その窓際に白いピアノと小さな舞台が用意されている。「シャンソンって、こんなに明るい所で歌うものだろうか。」「今日の天気はどっちかって言えばカンツォーネが似合いますよね。」
しかし時間になれば、帆をイメージして天井に張られていた白い布が降りてきて窓を塞いだ。一時、いよいよショーが始る。二部構成になっていて、十三人がそれぞれ一部では交互に一曲か二曲を歌い、二部になれば、一部で二曲を歌った人は一曲という具合で、三曲合計三十九曲歌うのである。そのうち私の知っている曲は四曲しかなかった。つまり無知な人間がトンチンカンな報告をするのだ。批評がましい言葉は全て素人のタワゴトである。レポーターに私を指名したのは大内の失敗だったかも知れない。
上田仲子さんの司会で大内が隣に立つ。大内は本日のショーの主催者兼スター歌手である。この上田さんは活動歴がずいぶん長そうで、いろんなところで歌っている。「ここは大内さんが社長さんの」と言って少し間を空けた後、「同級生なんだそうです」と締めくくったから、客席に笑いが起こった。その上田さんが最初の歌い手だ。
「シャンソンを歌う会」とは言っても、タンゴもあればカンツォーネもある。井上明子さん「カミニート」は、圧倒的な声量で驚かせた。よほど発声の訓練をしないと、こんな声は素人ではなかなか出せない。実は私はちあきなおみが歌うシャンソンやファドが好きだが、こういう歌も良い。プログラムの曲名のところにボールペンで小さなチェックを入れた。周りを見回すと、結構メモを取っているひとが目立つ。私も気分だけはいっぱしの批評家である。
大内はシャルル・トレネの名曲(調べて初めて知ったことを、知ったかぶりで書くのは私がときどきやる悪い癖だ)「ラ・メール」を歌う。クリスタルヨットクラブで歌うに相応しい。悔しいが声が良いのは仲間なら誰でも知っている。甘い声には膨らみがあって朗々と歌うから気持ちが良い。歌い終わるとS氏が「ブラボー」と声をかけた。
フランス語は分からないから日本語を探すと、菅美沙緒の訳詩が見つかった。
ラ・メール 夏の日 波は踊る
光の影ラ・メール 移りゆく小雨に
ラ・メール 果てしもなく繋がる
愛の夢とラ・メール 清らかな青空
ごらん 渚の青い葦を
ごらん かもめの遊ぶ家を
ラ・メール 優しい海の息吹
愛の歌はラ・メール わが胸に流れる
訳詩を見てしまうと、なんだかアンマリ感動しない。フランス語と海から私が連想するのは三好達治だ。
蝶のような私の郷愁!
蝶はいくつか籬を越え
午後の街角に海を見る・・・
私は壁に凭れる
隣の部屋で二時が打つ
――海よ
僕らの使ふ文字ではお前の中に母がゐる
そして母よ
仏蘭西人の言葉ではあなたの中に海がある(三好達治「郷愁」・『測量船』所収)
しかし、こんなことは今日のショーには何の関係もないことだった。
もうひとつ「枯葉」を歌う。途中で日本語も入れるのは素人客に聴かせるためだと、前に大内に聞いたことがある。フランス語だけだと客が飽きてしまうのだそうだ。私にもその方が有難い。ただ、シャンソンの日本語訳にはメロディに乗り切れず不自然になってしまったり、全く原詩の面影を変えてしまったりするものもあって難しい。個人的な感傷もあって、Mais la vie sépareというフレーズに私は絶対的な悲哀を感じるのだが(フランス語に無知な私が言うか)、いくつかある「枯葉」の日本語詞は、そんな気分を感じさせてくれないから困ってしまう。
「マイクの使い方が慣れてきましたね。」S氏はもう五六回、大内の会に付き合っているのだ。私は三回目になる。「初めてのときから見ればずいぶん余裕が出てきたよ。」身振り手振りも堂に入っている。実に堂々たる歌手である。
「銀座の『窓』には行きましたか。」「窓」はリリ・レイの経営するシャンソニエの店だ。大内はそこでも歌ったのだろうか。私はシャンソンを聴くために銀座に出るほどのファンではない。「さくら水産」で安い焼酎を仲間と飲むのが好きだ。
秀甫さんは残念ながら高音になると音程にやや不安がある。みゅうさんは、グループの中では一番上手いことになっているらしいが、今日のメンバーの中ではどうだろうか。決して下手ではない。上手い方らしいとは思うが、私はこのネットリした歌い方にはあまり感心しない。久美さんは歌よりも喋りで楽しませる。いわゆる「関西人風」なサービス精神が旺盛なのだろう。繰り返して言うが、こんなことは全て素人のタワゴトである。みんなプロを目指しているのだから、それなりに力はある。
徳物葉子さんの「十八歳の彼」というのは聴かせる。日本語に無理がないのは訳詞の手柄だろうが、悠々と歌う。私はちあきなおみと比べてしまいたい誘惑に駆られるが、それでは彼女に悪いだろう。「東京シャンソンアカデミーの同級生です。」大内の説明では、彼女が札幌で主催する会に参加して触発され、それを東京でもやってみたいと思い立ったのが、この「あの街でシャンソンを歌う会」になった。長坂玲のブログには、こんな風に書かれていた。今年七月のことである。
札幌パリ祭は三回目。
毎年 北海道在住生徒の徳物葉子さんが主催してくださいます。美人で美声でブティックを長年経営していらっしゃるシャンソンの上手な生徒さんです。
今年は東京から大内さんという男性の生徒さんが駆けつけ美声でオ・シャンゼリゼを仏語で三番まで歌い会場は大喝采。http://blog.goo.ne.jp/1955piafsuki/e/08e4a111543eeec5851ade099b9acf00
「美人」かどうか、こういうことは私の批評の任務ではない。TOMOちゃんは、三月のときとは見違えるようだ。「サンジェルマンにおいでよ」声に伸びがあって声量豊かに歌う。以前はもっと固かったのだが、今日は格段に余裕があって自信が感じられる。ヴィアン・ヴィアン・ヴィアンの繰り返しはかなり体力が要りそうだ。青い羽根を着けた衣装は、背が高いから照明に映える。化粧や髪型は越路吹雪をイメージしているのではないか。
前田恭子さん「愛の流れの中に」もちょっと良い。一部が終了したのは二時半である。チェックを入れながら、そして写真を撮りながら聴いているから疲れた。
トイレと煙草を済ませて席に戻ると、S氏は携帯でラグビーの早慶戦に夢中だ。「芝が濡れているんですよ。これじゃ滑ってしまう。」実はそちらの方にも行きたかったのだと、小さな声で言う。
これだけの人数がいると女性トイレは長蛇の列になってしまい、二部が始まったのは十五分ほど経った頃だ。
二部になれば衣装を替えなければいけない。「衣装代もバカにならないですよね。」しかしこれも女性にとっては楽しみのひとつに違いない。昨年、ひょんなことからカラオケ教室の発表会なるものに誘われたことがある。そのときも女性陣はドレスをとっかえひっかえ、それはもう大変なものであった。勿論プロを目指すひとたちと、カラオケ三昧のオバサンたちとでは話は違うだろう。趣味、着こなしの点で、カラオケオバサンたちとは大きな差がある。大内は真っ赤なシャツになった。
一部は名字の五十音順で登場したのが、二部になるとそれが逆順になる。だからさっき最後に登場した前田恭子さんは大変だ。必死で着替えたのではないか。その前田さん「わが麗しき恋物語」から二部が始まる。衣装も仕草も彼女が一番プロみたいだ。大内は後方に控えて、時々「ブラボー」の声をかけている。
それにしても三曲を同じ水準で歌うのは大変な実力が必要だ。私の鑑定では、井上明子さん、徳物葉子さん、前田恭子さん辺りがそのレベルだろうか。
前田恭子さんの歌い方は歌謡曲に近くて私には聴きやすい。タンゴが得意そうな柴たちえさんもなかなか迫力がある。「百万本のバラ」を歌っている最中、左の付け睫毛が剥がれて、黒い涙のように目尻にぶら下がってしまったのがとても惜しい。TOMOちゃんも頑張った。
スター大内はどうかと言えば、「さくらんぼの実る頃」で間違えた。フランス語で歌っているときには良い気分だった。日本語の部分もなかなか良かったのだが、「アッ、間違えちゃった」と途中で中断したのが惜しまれる。誰も分かりはしないのだから、そのまま続ければ良かった。「誰かが間違えないとね」と後で大内が軽く流していたのは、あるいはこの間違いも演技だったと言いたいか。しかし敢えて間違う演技をする性格ではない筈だ。歌い終わった時に妙齢の女性から花束が渡された。
私同様シャンソンに詳しくないひとが多いと思うので、日本語訳を見つけたから書いておこう。「さくらんぼの実る頃」LE TEMPS DES CERISES。クレマン作詞、ルナール作曲、工藤勉訳詞である。
さくらんぼの実る頃は
うぐいすが楽しそうに
野にうたうよ
乙女たちの心みだれて
恋に身をこがすよ
さくらんぼ実る頃は
愛のよろこびをみな歌うよ
けれどもさくらんぼの
実りは短く
心あせる
愛する人にじっと抱かれて
しあわせにふるえても
実り終わりうぐいす去ると
赤いしずくが胸を染める
さくらんぼ実る頃は
年老いた今もなお
なつかしいものさ
あの日のことを心に秘めて
過ごしたしあわせを
さくらんぼ実る頃は
いつもしのんで歌うよ
この歌のために赤いシャツを着込んだのだろうか。レベルは低くないのに惜しかったのは葛西かおりさん。「愛する時」は良かったが、「私と音楽」で一ヶ所ちょっと歌詞を間違えたようだった。
しかし三十九曲を聞き続けるのはかなり疲れる。私としては結構真面目に聴いたつもりだが、こんなことは初めてで腰と尻が少し痛い。
最後には出演者が入口に並び、客がその間を通り抜けて帰る。私は、記念撮影をしてくれと大内に頼まれたので、客がいなくなるまで待つ事になった。待っている間、秀甫さんが流し目で「四月も来てね」と声をかけてきた。四月にはまたここで第二回目の会を開くことになっているらしい。
この舞台からいつかメジャーな歌手が生まれる可能性もないではない。記念のために以下、本日のプログラムを記しておく。
上田仲子 | 「パリに夢中」「母が私に残したものは」 |
井上明子 | 「カミニート」 |
大内 誠 | 「ラ・メール」「枯葉」 |
葛西かおり | 「私と音楽」 |
笠原秀甫 | 「地中海のバラ」「イレーヌの店」 |
九能みゅう | 「いかないで」 |
佐藤実江子 | 「愛はあなたのように」「風のささやき」 |
柴 たちえ | 「愛のタンゴ」 |
高橋美礼 | 「雪が降る」「雨」 |
たつづき久美 | 「手相見(お手をどうぞ)」 |
徳物葉子 | 「パリの古い岸辺に」「十八歳の彼」 |
TOMO | 「サンジェルマンにおいでよ」 |
前田恭子 | 「アマポーラ」「愛の流れのように」 |
前田恭子 | 「わが麗しき恋物語」 |
TOMO | 「時は過ぎてゆく」「それが貴方なら」 |
徳物葉子 | 「オー・ホーリーナイト」 |
たつづき久美 | 「ブロードウェイのジャヴァ」「ジプシーの恋歌」 |
高橋美礼 | 「思い出のシチリア」 |
柴 たちえ | 「歌いながら」「百万本のバラ」 |
佐藤実江子 | 「街に歌が流れている」 |
九能みゅう | 「ジョニーへの手紙」「アンデスの風になりたい」 |
笠原秀甫 | 「鶴」 |
葛西かおり | 「愛する時」「青春はゆく」 |
大内 誠 | 「さくらんぼの実る頃」 |
井上明子 | 「アンコーラ」「ラストワルツ」 |
上田仲子 | 「涙」 |